市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第673回 2013.12.16

ジャパンCを中心に考える競馬番組(下)


 ジャパンCの面白さ向上を目指して取るべき策。それを、馬場、賞金・地位、日程、それらを総合したうえで海外に売り込む勧誘能力、といった点で考えるシリーズ。

 前回はまず馬場に関して、オールウェザーの導入と、「JRA主導で、ヨーロッパに高速馬場のコースを作ってレースを実施する」というアイディアを述べた。
 オールウェザー・コースが実現できれば、オールウェザー型強豪の来日可能性がアップするだけでなく、上手くプロモーションすればドバイワールドCと並ぶ「オールウェザーの世界チャンピオンを決める2大レース」の地位を手に入れられる可能性だって出てくる。北米やドバイへの遠征を志す日本馬にとっても、オールウェザーの番組体系充実は助けとなるだろう。
 いっぽう欧州での高速コースが実現できれば、欧州にいる「なるべく速い馬場がいい」という馬の関係者に喜んでもらえるだろうし、欧州に長期遠征する日本馬のベースとしても機能するかも知れない。
 またどちらのケースでも、欧米と日本との間における血統交換・交流……要するに「欧州や北米では成績的・血統的に限界のある馬を種牡馬として日本が買い取る」「日本にあふれているサンデーサイレンス系種牡馬を欧米に買い取ってもらう」という例がいま以上に増えることが期待できるだろう。

 続いて賞金・地位に関して。
 強豪が集まればそれだけレースとしての価値は高まり、レースの価値が高まれば勝ち馬が得られる栄誉も大きくなり、出走する強豪が増える……という好循環が生まれればいいのだけれど、発想を転換させて「まずはジャパンCを勝つことで得られる付加価値や栄誉を上げる」ことからスタートする、という考えだってある。

 できそうなことは、3つ。
 まず1つめとして前回は、勝ち馬買い取りオプションについて述べた。「ジャパンCを勝った馬は日本が買い取って日本で種牡馬として供用します」と条件をつけることで、売り込み目的の馬を呼べないだろうか、というわけだ。

 で、2つめは「いっそ強い牝馬を呼ぶことに特化してみてはいかがか」だ。
 これは以前にも述べたアイディア。何も「凱旋門賞馬に来てもらおう」「英ダービー馬もいいね」「北米の芝ホースだって」と、あれやこれや手を広げる必要なんてない。いや、手を広げようとするから逆に各方面への働きかけが中途半端となり、結果、どの馬も来てくれない、ということになってしまう。
 この問題を突破するために、上では「オールウェザーの世界チャンピオンを決めるレースにしてしまえ」といったわけだが、芝のままでもジャパンCを、よりテーマを絞り込んだレースに生まれ変わらせることは可能。
 それが「牝馬の世界チャンピオン決定戦」という位置づけだ。

 ウイジャボードやスノーフェアリーのように、牡馬の一線級とも互角に戦える牝馬は、ほぼ毎年のように世界のあちこちで現れている。そういう存在にターゲットを絞り、「牝馬同士ならさらに確実でしょ。凱旋門賞やBCターフあたりで着を拾うより、日本へ来て優勝したほうが賞金的にも値打ち的にもいいんじゃないでしょうか?」とセールスするのである。
 上記ウイジャボードやスノーフェアリーのようなタイプ、ブリーダーズカップ・フィリー&メアターフの上位馬、ヨークシャーオークスやヴェルメイユ賞の上位馬だけに照準を絞って勧誘すればいい、ということになる。
 また幸い、日本も強い牝馬がコンスタントに出てくる流れにある。GI戦線を戦った3歳馬は秋華賞から、古馬牝馬トップクラスはエリザベス女王杯から臨めるような番組整備をおこなえば、それなり以上のメンツで迎え撃つことができるはずだ。
 こうしたことが実現し軌道に乗れば、文句なく「牝馬の世界チャンピオン決定戦(場合によってはマイルと1マイル半の2カテゴリーで)」と呼べるレースになるだろう。

 少々このアイディアを広げて、1600m戦と2400m戦の2本立て(もちろんどちらも牝馬限定戦)で実施する手もある。ヴィクトリアマイルと新生ジャパンCを土日連続で開催するとか、同日開催(ヴィクトリアマイルは京都でもいいか)もありうるし、牝馬限定のダート重賞を作ってさらに華やかさアップ、なんてことも考えられる。
 秋は牝馬が熱い。そんなコンテンツ。ただ「GIが続く中に、ジャパンCもある」という現状より、売りやすいし興味も引きやすいのではないか。
 この女王決定戦で勝った馬が、マイルCSや有馬記念で牡馬と激突、というストーリーだって展開できる。

 ある意味では“すき間”を狙ったレース/戦略ともいえるわけだが、現状、米ブリーダーズCくらいしかないマーケットなのだから、世界的には歓迎されるはず。日本における牝馬の相対的価値も上がり、生産者も喜ぶんじゃないだろうか。

 ただ実際には、レースの条件を変えて国際グレードを維持できるのかといった問題もあって、意外と難しいかも知れない。もちろん「芝2400m、3歳以上・牡牝混合」という条件にあくまでもこだわりたいという想いを強く抱く人だって多いはずだ。
 そこで、ジャパンCの存在意義向上のアイディアその3として出てくるのは「ワールドチャンピオンシリーズの復活」ということになる。

 長らく中止されたまま放っておかれている競馬のワールドシリーズ。まぁスポンサーがつかないってのが大きな問題だと思うのだが、「既存のレースを、しかも春から年末までシリーズ化する」という構造じたいにも難があったように思う。
 これ、秋シーズンの4戦だけでいいんじゃないか。すなわち、凱旋門賞、米ブリーダーズカップ・ターフ、ジャパンC、香港ヴァーズ。芝2400mの国際G1を結んでシリーズ化するのである。
 4戦中3戦を走り、かつ最多のポイントを獲得した馬をシリーズチャンピオンと認定してやる。そういうルールにすることで、凱旋門賞または米ブリーダーズカップ・ターフどちらかの上位馬が参戦する可能性はグっと高まる。
 香港も同じことが期待できるのだから喜ぶだろう。場合によっては年明けのドバイ・シーマクラシックも仲間に入れてあげて「5戦中4戦」とするか、あるいは「5戦中3戦でOKだけれど、4戦使えばさらにボーナス」なんてしておけばドバイも喜ぶ。

 ぶっちゃけ、本当にジャパンCの地位向上と出走馬充実を目指すなら、これがもっとも有効な手立てだと思う。ただし、絶対に必要な下準備がいくつかある。
 まずは当然のことながら、各主催者団体への根回し。いや、根回しというより「これマジになって盛り上げましょうよ」という強い結束と覚悟の共有である。
 各主催者団体が「このシリーズは、F1や、サッカーのW杯やクラブ王者決定戦、あるいは各種スポーツの五輪とか世界選手権とかGPシリーズと同様、競馬における“もっとも権威のある世界選手権シリーズ”である」という認識を共有し、それを世界へ向けて大々的に発信・PRする必要がある。
 それが可能となれば「そんなシリーズに組み込まれたジャパンC」の地位は否応なく向上するだろう。

 さらにスケジュールの調整と受け入れ態勢の整備も重要だ。凱旋門賞から香港ヴァーズあるいはドバイ・シーマクラシックまで、円滑なローテーションを組めるよう日程を見直すのがベターだろう。
 凱旋門賞と米ブリーダーズカップ・ターフの日程を尊重するなら「日本としてはジャパンCを何週かズラしますので、香港は年明けにしてもらえませんか」とか、逆にジャパンCを年明けに持って行ってしまうとか。譲歩や駆け引きや徹底した話し合いが必要となってくる。と同時に、検疫に関する体制や法の整備も進めなければなるまい。

 そして、カネと汗。なにしろ“ジャパンCの地位向上と出走馬充実”が目的なのだから、日本としてはそれ相応の出費と労力提供は覚悟すべき。スポンサー集めとか、シリーズ全レースの馬券を売って各主催者団体に還元する仕組みを作るとか、中心になって働く調整役を買って出るとか、それくらいの努力は絶対に必要となってくる。

 このほかにも、ジャパンCを春シーズンのどこかに組み込むとか、いろいろとやりようはあるかも知れない。そのあたりの考察=ジャパンCに限らず番組体系を大幅かつ全体的に見直す作業については、またの機会にトライしたいと思うが、ひとまず今回はここまで。

 それではみなさま(取ってつけたようで恐縮だが)、よい年をお迎えください。

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