市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第672回 2013.12.9

ジャパンCを中心に考える競馬番組(中)


 近年のジャパンCにつきまとう「有力な外国馬の来日が少なくなった」「それどころか日本のトップホースも出てくれないことがある」という問題。これらを解決しようと考えるなら、馬場と、賞金・地位と、日程と、それらを総合したうえで海外に売り込む勧誘能力とを見直さなければならない。

 馬場に関しては前回「欧州並みに深くて重い芝にする必要はないし、技術的にも困難」「それぞれの国・地域の独自性を大切にしながら交流するのが本来の国際競走の姿であり意義である」としながらも「欧州テイストの芝があれば、遠征を志している馬にとってはいいデモンストレーションになる」「これなら日本に行ってもいいかなと海外勢に思わせる、新たなサムシングを打ち出してもいい」とも述べた。

 つらつら考えても2つのベクトルの両立は難しいように思えるので、ここは大胆な発想の転換にチャレンジしてみるべきだろう。

 まずはオールウェザーの導入。これは以前にも述べたことだが、JRAにある10の競馬場のうち少なくとも1つ、できれば東西1つずつの計2場について、ダートコースをオールウェザートラックにする、というアイディアだ。もちろん、ジャパンCもこの新コースでおこなうことになる。
 速い芝でやる、というこれまでのジャパンCの歴史・ありかたを全面的に路線変更することになるわけだが、一定のメリットはあるはず。アメリカ勢やドバイ調教馬の参戦が期待できるようになるはずだし、北米やドバイへの遠征を志す日本馬にとっても、ここで日常的にレースがおこなわれるようになれば、適性判断などの助けになるだろう。サンデーサイレンス系で埋め尽くされつつある種牡馬勢力図にも、オールウェザーの導入で変化が現れるかも知れない。

 ちなみにオールウェザー変更以降のドバイワールドC勝ち馬を見てみると、シンガポール航空国際C優勝のグロリアデカンペオン、日本のヴィクトワールピサ、オールウェザーとやや堅めの芝兼用イメージのあるモンテロッソ、ケンタッキーダービー勝ち馬アニマルキングダム(オールウェザーや芝でも好走している)。またオールウェザーでおこなわれたブリーダーズCクラシックの勝ち馬は、芝マイラーのレイヴンズパス、オールウェザー型ゼニヤッタ。そのほかサンタアニタダービーやパシフィッククラシックSあたりの勝ち馬を見ると、全体として「ダートより芝が得意な馬が多そう。いっぽうダートでも重賞を勝てる力を持つ馬もいたりする。が、もっとも強いイメージとしては『オールウェザーがいちばん走る』という馬」といった感じ。
 そういう馬にチャンスを与える番組体系を作ってみるのもいいんじゃないだろうか。

 まぁ、ひとくちにオールウェザーといっても素材によって求められる適性やレース展開などは大きく変わるので、そのあたりは慎重に検証しなければならない。ひとつ間違うとどこからも馬が来てくれなくなる、なんて事態だって考えられる。が、上手く事を進められれば、ドバイワールドCと並ぶ「オールウェザーの世界チャンピオンを決める2大レース」の地位を手に入れることだって決して夢ではない。

 ただ、個人的には現在のような「時計の出る馬場」でジャパンCが実施される状況も捨てがたく、さらに進んで「時計勝負というカテゴリーでの世界チャンピオン決定戦」であることを目指す、というスタンスも見せるべきではないかと思う。
 そこで大胆に「JRA主導で、ヨーロッパにもそういう馬場を作っちゃえばいい」というアイディアを打ち出してみる。
 イギリスかフランスか、あるいはドイツかイタリアか、もうちょっとランクとして落ちる国でもいいが、どこかで経営的に行き詰っている競馬場を見つけ出して買い取り、現地のジョッキークラブなどとも連携して「速い芝」のコースを向こうに作ってしまうのだ。

 もちろんそこでは、重賞を実施。ジャパンチャレンジとでも名づけて、速い芝が得意という馬たちを集めてレースをおこなう。上位馬はジャパンCへご招待だ。
 欧州にだって「なるべく速い馬場がいい」という馬はいる。そういう馬の受け皿としての競馬場とレースシリーズを作れれば、現地でも喜んでもらえるのではないか。日本でも馬券を売れるようにして賞金を高く設定すれば、馬だって集めやすいはず。欧州勢にとっては「いきなり日本に遠征するより、日本に似た芝コンディションで試走できればリスクも軽減できる」ことになるし、欧州では成績的・血統的に限界のある馬を種牡馬として日本に買い取ってもらえるチャンスも生まれる。
 この競馬場が欧州に長期遠征する日本馬のベースとしても機能するかも知れないし、となれば日本からの注目度も高まるはずだ。

 実現までのハードルはかなり高いと思う。また「凱旋門賞や英愛ダービーなどで勝ち負けできる超Aクラスの来日」にはつながらないアイディアともいえる。
 だが、欧州の既存重賞路線で入着級の馬や、比較的時計の速いコースでだけ好走しているような、いわば純A級が、この競馬場から活路を見出して羽ばたくことが考えられる。イメージとしては、ここで3月、5月、9月あたりに重賞を実施し、勝ち負けした馬が欧州主要国の1000ギニー/2000ギニーやダービー、マイル〜1800mのG1、キングジョージとか凱旋門賞などに出走、馬場の重さに負けたけれど「日本でなら上位に食い込めるかもしれない」と、ジャパンCや宝塚記念、安田記念やマイルCS、エリザベス女王杯に来てくれる、という流れである。

 ただ、比較的速い時計で決着することもあるブリーダーズカップターフの勝ち馬が、ジャパンCをほとんど無視しているという現実もある。時計勝負に向くことが判明している馬でも、必ずしもジャパンCに来てくれるわけではないのだ。
 となれば、馬場の改修や欧州での高速馬場実現といった「日本へ向かいやすい環境の整備」と同時に、いやそれ以上に「どうしても日本へ行きたい」と思わせるレベルでの取組みが必要だ。
 これについては前回「賞金よりも『そのレースを勝つことで得られる栄誉』のほうが要素としては大きい」「賞金とレースの価値はイコールではない」と書いた。

 もちろん高額賞金をキープすることは大切だが、「ジャパンCに勝つこと」で得られる栄誉や付加価値こそが、強豪を呼ぶためには重要であるはず。
 ま、もともと強豪が集まればそれだけレースとしての価値は高まり、レースの価値が高まれば勝ち馬が得られる栄誉も大きくなり、その馬の種牡馬としての価値も上がり、「じゃああのレースを使おう」と強豪が増える……という好循環がレースを取り巻く健全な競馬経済であるわけだが、とはいえ「強豪を集めましょう」と考えても苦労しているのがジャパンCの現状。
 ならば、ここでも発想の転換。まずはジャパンCを勝つことで得られる付加価値や栄誉を上げることからスタートすべし。

 といっても簡単な話ではないが、突破口として3つのアイディアを考えてみる。
 1つめは、勝ち馬買い取りオプション。ジャパンCを勝った馬については日本が買い取って日本で種牡馬として供用します、という条件を付ける。欧米でのG1勝ち鞍があれば、さらに買い取り金額上乗せだ(牝馬の場合は賞金上乗せか、やっぱり買い取りかを選んでもらうことになるだろうか)。
 もともとジャパンCは一時期、日本の馬場に適性があるかどうかを見極めるテストの場という意味合いも持っていたのだから、そう無理のある話ではない。
 もっとも、誰が買い取るのか、どのような形で供用するのかなどクリアすべき課題は大きいけれど、欧米G1クラスにとっては来日への1つのモチベーションになることは期待できる。

 2つめは「いっそ強い牝馬を呼ぶことに特化してみてはいかがか」、3つめは「ワールドチャンピオンシリーズの復活」ということになるのだが、このあたりについては番組体系の大幅な変更や、「そもそもどんな馬を呼びたいのか」というジャパンCの意義そのものに踏み込むテーマとなるので、以下は次回にて。     (つづく)

>>BACK >>HOME