市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第669回 2013.11.18

競馬的『あまちゃん』論と『あまちゃん』的競馬論(6)


 さてさて、やっぱ朝ドラの中では『ちりとてちん』最強だな、という思いも募る今日この頃、当コラムでは引き続いて『あまちゃん』と競馬を絡めたお話が進みます。

 ユイちゃんと同様、レースのたびに“自らの夢の死”を体験する、僕ら競馬ファン。とにかく「この馬が勝つに違いない」という思い込みはしょっちゅう裏切られ、自らの信念の死を自覚する。自分の思い違いを恥じる。けれどまた新たな思いつきに縋り付いて……と、同じところをぐーるぐる。
 この輪廻の中から抜け出して、できれば1つの思い込みだけで競馬をやっていける解脱へと至る方法を考えなければなるまい。

 予想においてこの方法論が有効じゃないか? という思いつきそのものが、まずは1つのキーだろう。
 願望としては、ある1つの理論だけで競馬すべてを、芝もダートも短距離も長距離も、みぃんなまとめて予想できるような、そんな状況に自分を置きたいものだ。けれどそうしたチャレンジに、たぶん世界中の何十億人もの競馬ファンが取り組んできて、結局は失敗に終わり、それぞれの思いつきが思い違いだったと思い知らされているはず。
 もちろん、数々のチャレンジの中から、たとえば現在でも競走馬生産における指針となっているような血統論とか、スピード指数およびそこから派生した各種の予想理論のように、広く認識され支持されるものも稀にではあるが生まれるだろう。

 でも、ひとくちに競馬といっても条件はさまざま、走る馬は毎回バラバラ。各世代のレベルとか特徴とかにもバラつきがあって、同じ競馬場でも季節や天候によって馬場の特徴は変わる。それらすべてをひっくるめて1つの理論で説明しようなんて、そもそも無理なんだろうと思う。
 となれば、ごく限定された舞台や条件でだけで通用するような、そんなアイディアを思いつくところから始めるのがいいんじゃないだろうか。ユイちゃんが「東京を中心に活躍する全国区のアイドル」から「北三陸で活躍し、そこに来ないと逢えないアイドル」へと路線変更したように。

 ターゲットとする範囲をどれくらいまで絞るかは悩みどころだが、少なくとも「JRAの芝のレース」というレベルでは、まだまだ広すぎる。距離によって「勝つために求められるもの」が違うのは当然だし、馬場状態の違い、賞金条件なども無視できない。
 かといってあまりに条件を絞り過ぎると、データや傾向の検証のためのサンプルは少なくなる。仮に「3歳以上500万下・阪神の芝1200m・10頭〜14頭立て・9月〜10月」というレースで的中率35%、回収率150%くらいの予想理論を確立したとしても、そういうレースが少なければ儲ける機会も少なくなってしまう。

 このあたり、どの程度の頻度で馬券を買いたいのか、どの程度の儲けを得たいのか、それぞれの考えにもよって狙うべきレースは変わってくるのだろうが、ひとまず現時点ではまだ“思いつき”のレベルなので、まずはレースを見ながら自由に想像力をふくらませるべし。「ああ、こういうパターンのときって前もこういうタイプが勝ったよな」と思いついたなら、そこにさまざまな条件をプラスマイナスしながら「こういうときには極めて有効な理論」へと成長させていくのがいいだろう。
 ただし注意すべきは、ただ安直に「昨日までとは異なる思いつき」へと手を出してしまうのは避けること。それまで自分の中になかった思いつきというだけでなく、他の誰かがまだ手を出していない思いつきであることが重要だ。有効な予想理論や「勝つ馬の見つけ出しかた」が確立していないところで勝負することが、その思いつきを上手に育てるコツなんだと思う。

 続いて“思いつき”から“思い込み”へと進む手順や内容・過程の問題だ。
「ああ、こういうパターンのときって前もこういうタイプが勝ったよな」「この条件のレースって、ひょっとしてこういう特定のタイプの成績が良くないか?」という思いつきをもとに、データを調べたり実際に馬券を買ったり、有効度を地道に検証するのが通常の手順だろう。上手く「やっぱりそうだ!」という思い込みへと至れば、そこへ突入、検証結果と信念に従って馬券を買い続けることになる。

 ここで重要なのが、期間と、やっぱり範囲の問題。
 上記のように「思いつきを思い込みに変える検証」を日々繰り返している経験からいわせていただくと、去年は有効だったのに今年はダメ、というものがかなり多い。
 また、Aという条件のレースでBとCの馬を買ったとき、トータルでは的中率も回収率も優秀なのだが、Bは去年の中山がダメで、Cは今年のダート短距離ではダメ、など、複雑に「使えるときと使えないとき」が入り組んでいることもある。

 理由はいろいろあるだろう。近年盛んにおこなわれる馬場の改修、騎手と調教師の勢力図変化、血統の変化、年ごとの気候の違い……。レースに影響を及ぼすファクターの何か1つでも変化すれば、全体の傾向がガラリと変わってしまっても無理はない。
 わずかな変化が「去年の中山」でだけレース全体にも変化を生み、そのせいで、普通なら有力な馬が不調に陥ってしまう、というケースだって考えられる。

 だったら短い期間、狭い範囲で効果を発揮する理論を目指せばいいということになるが、そうするとサンプルも、実践できるレース数も少なくなる。逆に期間を長く取り過ぎるのも良くない。上述の「年によって変化する可能性のあるファクター」が積み重なって、データそのものが意味をなさなくなる恐れがある。10年前と現在とでは種牡馬やジョッキーのランキングは異なるし、レース体系/番組だって変化しているのだから。

 じゃあどうすればいいかといえば、ここで必要なのは“覚悟”なんだと思う。
 あるレースで、あるタイプがX頭走って、勝率がY%以上、回収率がZ%以上のとき、などと一定の条件で区切り、それを実現したときには理論として成立させる。ある意味では機械的な作業が求められるんじゃないだろうか。
 どうしても人は「この思いつきが有効であってほしい」と考えてしまう。だから多少データとして問題があっても、たとえば「過去○年でこういうタイプは、こいつもこいつも勝っているでしょ」と、印象に残っている事例だけを取り上げて「イコール有効な考えかただ」と思い込んでしまう。そうではなく、もっと冷徹に、誰に対しても数字で有効性を納得してもらえるような土台を得ることが大切であるはずだ。

 あるいは逆に、まずデータを細部まで網羅し、そこから何かを思いつく、ということもあるだろう。
 まずはなるべくニュートラルな立場で、レースを区切る。年ごと、条件ごと、競馬場ごと、距離ごと……。そして、それぞれの中における各種タイプの成績の統計を取る。血統別、騎手・調教師別、枠順別、前走の成績別、脚質別……。そうして出てきたデータを俯瞰で眺めて「あれ? 重馬場のときには馬体重が大幅に増えた馬の成績がいいぞ」といった傾向が見えたなら、そこを突破口として、さらにレース条件と出走馬タイプを絞り込んでいき、「なるほど。○○○のときは▲▲▲な馬を買えばいいんだ」と、思いつきと思い込みを同時に得る。そういうアプローチもあるんじゃないだろうか。

 いずれにせよ思いつきを思い込み(というよりも確信)へと変え、その確信に則った馬券で成功するためには、工夫や覚悟が重要になる。ただ安直な「ひょっとして」を、テキトーな検証で「やっぱりそうだ」に変えてしまうから、たびたび“信念の死”を味わってしまうのだ。

 というわけで次回は“思い違い”について。「もっと長いスパンで見たときに有効という馬券術や予想理論もあるはず」といった話と、「『パート2』と番組体系および血統について」で、できればこの『あまちゃん』的競馬論にはケリをつけたい次第。(つづく)

>>BACK >>HOME