JRA版マイレージ再考
航空会社のマイレージやクレジットカード/ショップのポイント制度を利用しているかたは多いと思う。各サービスで貯まるマイルやポイントは、だいたい購入額の1〜15パーセントくらいか。
たとえば大手家電量販店では、金額の10〜15パーセントをポイント還元するのが相場のようだ。パソコンとテレビとDVDレコーダー、あわせて40万円の買い物をした場合、還元されるのは約4万円。これでデジカメを買える、といった感じ。
あるいはJALの場合、15000マイル貯まれば国内ほぼどこへでも往復できる航空券が手に入る。値打ちとしては、やはり4万円くらいだ。航空券のほか、ショッピングや提携ホテルの利用などでも貯まるマイレージ制度を賢く活用して、15000マイル貯めるためには、やっぱり40万円くらいか。
得をするというだけでなく、貯まっていく様子が嬉しくて、ついつい利用してしまう。
これを受けて「JRAの馬券にもマイレージ制度を導入してはどうか?」と提案した。が、ちょっと、というか、かなり難しいのかなという気がしている。まぁ、いまさらなんだけれど。
上記の例にならえば、10パーセントの還元が妥当。100万円買ったら10万円のキャッシュバック。これは、かなり大きい。単純に「100円の馬券だけれど、90円で買える」ようなものだ。100万円買って、回収率が平均的な80パーセント前後とすれば払戻しは80万円、つまり年間マイナス20万円。ここに10万円、JRAが補填してくださる。そりゃあ買いまくるでしょう。
が、考えてみれば、JRAの馬券売り上げは年間3兆円。その10パーセントの3000億円も補填するとなると、こりゃあ出し過ぎかも知れない。仮に「年間300万円以上購入のかたに限る」とし、さらに「キャッシュバック分は馬券購入に限り使用できる」という条件をつけても、JRAの持ち出しは十億円単位になるだろう。「それだけの金を出してヘンなキャンペーンをするより効果的」とも思える反面、「それだけ買うヤツは、よほどの競馬好きなので黙っていても買ってくれる」ともいえる。
そもそも、300万円の売上げがあったからといって、それがそっくりJRAの懐に入るわけじゃない。うち8割の240万円はレース後すぐに払戻しとして拠出しなければならないわけで、いわば預かり金。残りの60万円が実質的な売上げだ。
逆から見ると、300万円買っているつもりでも、使ったのは実質60万円ということ。それを10パーセント還元してもらうとして6万円。つまり「300万円買って6万円のキャッシュバック」が妥当ということになる。
競馬ファン1000万人のうち、年間300万円以上買う人が1万人いたとして、彼らの総購入額は300億円超。キャッシュバックに必要なのは6億円超。それだけの費用で「年間300万円買ってくれる人を増やす」のがいいのか、「300万円も買わない大多数のファン向けサービスや広告を厚くする」のがいいのか、議論は分かれるところだろう。
ちょっとカタチを変えて、「大口購入者専用IPAT」というのはどうだろう。
このサービスでは、まず一定額以上の購入資金を年頭に、専用口座へ入れることを求められる。仮に100万円としておこう。ところがお金を入れた途端に、残金は102万円となる(還元率2パーセント)。そこから馬券を購入し、その口座に払戻し金が振り込まれることになるのだが、すぐに引き出すことはできない。1年間、かつ100万円以上馬券を購入した場合に限って、残金を引き出すことができる、ということにしておくのだ(購入額が100万円に満たなかった場合、決算時に残高から2万円がマイナスされる)。あるいは同種の口座(まず100万円以上を入金/1年間引き出し不可)で、100万円購入するごとに2万円のキャッシュバック、という手もある。これならダイレクトに「たくさん買ってくれる人」を増やせそうだ。
もちろん、まだまだJRA側の持ち出しはかなりの額になるはず。そこで、還元率をやや低めに設定する代わりにその他の特典を大口会員に与えるなどすればいいのではないか。
ここで、現在JRAが実施している同様のサービスを見てみよう。JRAカードのポイントプログラムだ。JRAカードユーザーなら、競馬場への来場やショッピングでポイントを獲得することができる。そのポイントは、来賓室・来賓席・指定席での競馬観戦といった特典や各種グッズなどに交換可能となっている。
1000ポイントで55度数のオッズカード(500円)、2000ポイントで共通入場回数券(1000円)、3000ポイントでターフィー君のぬいぐるみ(1800円)、9000ポイントで「優駿」の年間購読(8400円)や四つ切サイズのレースパネル(4600円)などといった交換アイテムから考えると、実質的には1ポイント0.5円くらいの価値か。
貯めかたの例をあげると、指定席+入場料の1200円〜3000円程度で獲得できるのが20〜40ポイント。これを月に1回・年間12回、計20000円で400ポイントと考えれば、20000円=400ポイント=200円。つまり還元率は1パーセントということ。ショッピングによって貯められるポイントは1000円につき10ポイント(5円)だから、還元率は0.5パーセントに過ぎない。
かなり低いように感じられるが、「これくらいしか還元できない組織が、『300万円買って6万円のキャッシュバック』なんて無理」という結論へと至り、だから「馬券マイレージは無理っぽい」と思えるのだ。
じゃあ、0.5パーセント〜1パーセントの還元率なら実現可能性はあるだろうか。「300万円で3万円」、あるいは「300万円のうち、購入者の実質支出は60万円なので、その1パーセントの6000円」といった具合だ。
仮に可能だとしても、利用者にとってのウマミは相当に少ない。そこで次の手段。馬券の購入代金をクレジットカード引き落としにできないだろうか。まずは競馬場やWINSにある自動券売機をクレジットカード対応にする。さらにIPAT用口座からの引き落とし・払戻しにクレジットカードを介入させる。そうして、各カード利用に応じて貯まるポイントが馬券購入者にバックされるようなシステムを採り入れるのだ。
カード会社のポイントは、だいたい還元率1パーセント。ショッピングによって貯まるマイレージなども、最大でこんなもんだろう。ただし前述の通り、馬券の購入代金は実質「その額の2割の値打ち」と考えられるから、見た目の還元率は0.2パーセントが妥当ということになる。
馬券を100万円買えば、使った額は実質20万円、その1パーセントの2000円がキャッシュバック。300万円なら、60万円分の1パーセントで6000円」だ。これをJRAが拠出するのではなく、カード会社が被るのである。
相変わらず還元率は低いが、馬券の中だけ・JRAの中だけでポイント/マイレージを消化するより、同じ額でも使用時の汎用性が広がる。普通の買い物でポイントを貯めようとすると意外とタイヘンだが、馬券なら「ひょっとすると大儲けできるかも知れない買い物で、ポイントも貯まる」という意識が働いて、自然とポイント増加へと至ることも期待できる。
問題はあるだろう。ギャンブルは、とかく「ダメな人間が手を出すもの」とされがち。そこに“信用”を軸とするクレジットカードを噛ませることに、世間的な批判やリスクはあるはずだ。たとえば「カード限度額いっぱい(仮に50万円とする)に3連単の高額配当馬券を買えるだけ買って、数百万円の払戻しを得て、支払いは“ばっくれる”」という詐欺が成立してしまう恐れだってある。それを避けるため、場内にカード対応発券機は置かずIPATだけで採用、払戻しの支払いまでに通常より時間がかかる(1か月後に馬券購入代金と相殺して決済とか)、といった制限が必要なのかも知れない。還元率が低いのに使い勝手も悪い、というサービスになりかねないわけだ。
うーむ、なかなかに難しい。
いずれにせよ肝心なのは、年間にたくさん買ってくれる顧客を優遇すると同時に、サービスを実施するJRA側にもメリット(売上げ増)が見込める内容であること。ひょっとすると「1年間にドカンと買ってくれる人よりも、10年、20年とコツコツ買い続けてくれる人のほうが主催者としてはありがたい」という事実があって、そうしたファンへ向けての還元策こそ必要なのかも知れない。たとえばケータイ各社がやっているような「使用期間に応じて割引率アップ」というタイプのサービスだ。
また、お金やポイントのキャッシュバックが難しいなら、たとえば「IPAT馬券道場」の賞品を、名誉だけでなく具体的なオトク感を与えるアイテムへとグレードアップさせるとか。実際、競馬場来場者やP−1グランプリ参加者に対しては旅行券などの賞品も用意されているのだから、「たくさん買ってくれる人」への十分な還元だって可能なはずである。
今後もこの課題については、折を見て考えていきたい。