競馬の中継・放送形態を考える
昨年の後半あたりから、テレビでバラエティ番組を観る機会が減った。いや、観たいものは観るんだが、別に観なくていーやというものは観なくなった、というべきか。これまでなら、たとえば新聞を読んだり洗濯物を畳んだりする際、「家の中が静か過ぎるな」と感じたらBGMあるいはBGVとしてテレビをONにし、お笑いタレントがたわいもない企画でぎゃーぎゃー叫んでいる番組を垂れ流し、まさにニッポン家庭の「これぞお茶の間」といった光景を作り出していたのだが、なんというか、その手の番組を気忙しく感じるようになったのだ。歳を取ったせいだろう。
最近では紀行番組で代用している。あるいはクラシックのコンサート(CDやiPodという手もある)。なんか音が欲しいなと思ったら、地上波/BS/CSの電子プログラムガイドを総動員、「静かな音楽+絵的にもキレイ」とか「海外の街並みをバックに音楽とか実用的な情報を流す」みたいな番組を探している。たまに「おっ、このレポーター、かわいいじゃん」ってこともある(『トラベラーズ・イングリッシュ』の林美貴子さんなんかがお気に入り)。いまだってカレーを作りながらバーンスタインとか聴いていたし。
なぜこんなことを言い出したかというと、以前ある競馬関係者から「グリーンチャンネルの競馬中継は気忙しすぎる」と聞いたことを思い出したからだ。私自身はそんな風に感じなかったのだが、なるほど、オッズ画面にはにぎやかなBGMが重ねられるし、時おり派手なCMも挿入される。それらを“不要”と思う人だっているかも知れない。
が、かといって落ち着きがありすぎるのもどうかと思う。味も素っ気もなく、ただ必要性と機能重視でパドック、オッズ、レースのルーティンが繰り返され、合間にはキャスターによる事実確認のアナウンスだけ。そんな放送内容では、なんだか暗い。競馬好きだけが観るグリーンチャンネルとはいえ、もう少し演出があったっていいだろう。正直、スカパー!などで放送される地方競馬の中継は、かなり華というものに欠け、その暗さゆえにファン数も減少したのではないか、と思えるくらいだ。
グリーンチャンネルは現状維持、それよりもライトファンに対する訴求力を発揮しなければならない民放の競馬番組はもう少し華やかににぎやかに。そういうスタイルでいいのではないかと思う。むしろグリーンチャンネルも民放も、もっともっと派手にしたっていいくらいだ。何度か当コラムで提案しているように、人気タレントを起用し、あるいは競馬タレントを育て、土曜のゴールデンタイムを利用してドカンと競馬バラエティを流す。それくらいやったっていい。
が、いまの競馬中継、特にグリーンチャンネルの番組に詰め込まれた内容には不満が残る。むしろ音よりも、内容的な気忙しさのほうが目障りといってしまっていいだろう。
まず、オッズ(レース前)なんていらない。百歩譲っても、パドック画面で各馬の様子とともに表示される単勝オッズだけで十分だろう。グリーンチャンネルを視聴している人というのは、IPATユーザーやJRA−VANユーザーとほとんど完全に重複しているはずであり、そうするとIPATやJRA−VANで簡単にリアルタイムオッズを入手できるじゃないか。そもそも3連単が主流となり、その他あれやこれやの馬券種別が存在するいま、限られたサイズと秒数しかないテレビにオッズを乗っけることじたいに無理があるというか意味がないというか。オッズを思い切って割愛し、そのぶんをパドックやレースリプレイ、参考レースなどに回したほうがよっぽど有用ではないだろうか。
実はグリーンチャンネルが2チャンネル化される際、いっぽうはレース中心、もういっぽうはパドックやオッズ中心という使い分けになるのではないか、という予想もあった。が、フタを開けてみればご存知の通り、関東+関西という形態に。ケーブルテレビとの契約上の問題や放送・制作の効率化、その他お付き合い的な事情など諸々があって現状のスタイルになったのだろうが、これもまた改善の余地があるだろう。午前から昼過ぎにかけておこなわれる平場のレースなど、関東を見て、関西を見て、関東を見て……と、ひっきりなしにチャンネルを変えなければならない。関東だろうが関西だろうがローカルだろうが、とにかく1日じゅう目一杯に買おうという人も多いはずで、そういうコアなファンには使いづらい形になってしまっているわけだ。前述のように、どちらかいっぽうにレースをまとめれば、この苦労はなくなるはずである。オッズをなくしてしまえば、2場ぶんくらいならパドックとレースとを1チャンネルにまとめることだって可能なのではないうだろうか。
もっといい方法がある。ネットの活用だ。競馬中継をネット経由で流すのである。
私の場合、仕事部屋のパソコンデスクの前に座るとテレビ画面が見えず、グリーンチャンネルを観ながらIPATという作業ができない情けない環境にある。まぁこれは個人的な事情だが、「どうせならパソコン1画面でレースも観て投票もできて、という環境で競馬を楽しみたい」という人は多いはずだ。また昨今ではテレビチューナー内蔵のパソコンが一般化してきており、CPUパワーや描写精度も上がり、実際に「液晶モニターには競馬中継のウィンドウとIPAT画面が立ち上がっている」という人は、かなりいらっしゃるのではないだろうか。
そうしたニーズに応えるためにも、JRAと関係会社には、インターネット経由でのリアルタイム中継をいち早く実現していただきたいものだ。実際、地方競馬ではすでに採用されている(しかも無料で)サービスでもあるわけだし。
もちろん、その前に横たわる問題はたくさんあるだろう。
まずは設備投資。レース映像をネットに流せる形態にすることはそれほど苦労じゃないだろうけれど、トラフィック関係はかなりやっかいかも知れない。大レースともなれば、いっぺんに数百万人ものファンがその中継にアクセスするはず。これを捌き切ってなお余りあるだけの回線やサーバーをそろえなければならないだろう。
送信側環境には、相当の解像度も求められる。レース中継の場合、「ちゃんと観る」ためには各馬の位置取りやゼッケン、各騎手の勝負服などをきっちりと視認できることが必要だ。しかも、すべての馬が猛スピードで走っており、そのスピードについていけるだけのレートも満たさなければならない。技術的に不可能ではないはずだが、「なんとなく見えりゃいいんでしょ」レベルに比べれば、投資額はグンと跳ね上がることになるだろう。
さらに大きな問題は、利用料。投資が大きくなれば(いや小さくても)、それを回収する手段を考えなければならない。手っ取り早いのは有料制ということになるだろう。会員数を限定すれば、前述のトラフィックの問題にも対処しやすくなるわけだし。が、可能ならば「無料」がベスト。最低でも「一応は有料だけれど、月間で○○円以上IPATで買ってくれたら、その月はタダ」くらいの設定であって欲しいものだ。
これらの条件が整えられたとしても、今度は受け手側=ユーザーの問題が浮上する。それだけの解像度と転送スピードを持つリアルタイム映像を再生するためには、CPUにも回線速度にもそれなりのクォリティが求められることになるわけだ。場合によっては、せっかくJRAが素晴らしい映像を膨大なアクセスに対応できるだけの体勢で流してくれたとしても、それについていけるだけのスペックをユーザー側が持たない、という状況だってありうるだろう。
ユーザー側の問題は、単に映像処理+回線の速度とクォリティだけにとどまらない。中継再生ウィンドウとともに競馬データベースソフトや予想ソフト、インターネットブラウザなども同時に起動するという使いかたが前提になるはずで、ますますCPUに負荷がかかり、メモリも要することになる。「ネット中継を観ながら馬券を買う」という環境を快適に利用するためには、相当ハイスペックのマシンと通信環境をそろえなければならないだろう。
オッズはIPATやJRA−VANを利用すればいいので、「ネット中継をパソコンで観る」というこのスタイルにおいては、ますますオッズは不要。関東のレース/関東のパドック/関西のレース/関西のパドック/ローカルのレース/ローカルのパドックという最大6チャンネル制にし、それぞれがもうストイックに、BGMなんてなし、ひたすらレース(さすがに実況は欲しいけれど)とパドックを映し続けるだけ。パドックチャンネルなんか、まぁ次のレースの各馬の馬体重などは映すことになるだろうが、レースとレースの合間にはからっぽのパドックを映し続けたっていいんじゃないか。できれば複数のチャンネルを同時に見ながらとか、シームレスに切り替えて観られるようになってくれるのが望ましい。ついでに過去のレース映像や参考レースも自在に呼び出せるよう、リアルタイム中継&競馬映像アーカイブのサイトを作ってもらえれば、かなり有用なものとなってくれるはずだ。
ま、JRAの努力やユーザー側が必要な環境を整えるための懐具合はなんとかなるとしても、どうしても回線速度の問題が大きくて(これだけはNTTなど通信会社がなんとかしてくれないと)、そうやすやすとは実現できないだろうけれど、いずれは実現を望みたいのが、この「競馬のネット中継」である。