市丸博司のPC競馬ニュース 谷川善久の枠内駐立不良につき
 第330回 2006.04.17

ネット空間における競馬の売り方 後編


 インターネット世界で『おバカ』と同等以上のパワーを持っているのが『カネ』だ。ネットバンキング、デイトレーディング、有料コンテンツやオークションや物品売買の決済……などで、とてつもない額のカネが日々動いている。『おバカ』が流行や瞬間的な爆発だけにとどまるのに対して、ネット世界におけるカネの流れは1つの大きなマーケットとして確立していて、その周辺には金儲けの種が転がっているし、「ネットの中のカネを制したものがネットを制す」とまでいえるかも知れない。だからこそインターネット専業銀行やネット上の与信などが商売として成立するのだろう。

 で、即PATが、これまでのジャパンネット銀行だけでなくイーバンク銀行とも提携するという。選択肢が増えるのは喜ばしいことだが、なんだか生ぬるいなぁという感想も否めない。
 いっそJRAが銀行を持つ(銀行業務に乗り出す)という手はないだろうか。
 馬券の売上げは年間3兆円、うち6割がPATによる購入分としても1.8兆円。これだけのカネが動くマーケットはそうそうない。それだけじゃない。競馬の世界で、一般のファンが馬券購入と払戻し以外に動かすカネには、、クラブ法人の馬代金と飼葉料、そして情報量といったところがあげられる。クラブ法人関係で動くカネ(年間550頭×3000万円として)は年間総計165億円、さらに100万人のユーザーが月平均1000円を情報量として払うと考えると年間120億円。これらをひっくるめて「競馬世界のカネ市場」と捉えて、すべて囲い込むことができればかなりの“パワー”を手にすることができるといえるだろう。
 インターネット専業銀行について調べてみると、イーバンク銀行の資本金が約300億円・預金残高が約3000億円、ジャパンネット銀行が資本金200億円で預金残高は2000億円〜3000億円、口座数はどちらも100万といったところのようだ。
 JRAの場合、大きめのGI(日本ダービーとか有馬記念とか)の開催日には2〜3場合計で400〜700億円くらいが賭けられるから、これが5〜7回あれば、インターネット専業銀行の預金残高と同程度のカネが動くということになる。PATの会員数は200万人を超えているから、口座数的には巨大なネット銀行2つ分に匹敵するスケールを実現できるわけだ。

 これだけの規模があれば、ただそれだけでビジネスチャンスが広がるはずであり、かなり自由度の高いサービスや運営形態も可能となるだろう。
 このJRAバンク最大のポイントは、当然のことながら、利用者がイコール競馬ファンであることと、それぞれが「馬券に使おう」と考えてこの銀行に一定以上の額を預金している点にある。つまり、会員へのキャッシュバック、一定以上の額を賭けた人への優遇、この口座の開設者でないと買えない馬券……といった「ファンがこのJRAバンクを利用するメリット」を設定するなど、誰もが喜ぶ『カネ』という切り口でのサービスを効率的に実施できるわけだ。たとえば5連単や10連単といった、払戻しが億を超えることが期待できる宝くじ的馬券をメインレースと最終レースに導入し、JRAバンクでだけ買えるようにすればどうか。口座管理手数料として月額100円が必要だが、馬券購入金額が月額ン万円を超えれば手数料を取らない、という手もある。
 また、200万人の半分にあたる100万人に「1日あたり、あと1000円余分に買ってもらう」ことが可能となったなら、それだけで売上げは10億円増。これが年間100日で1000億円の売上げアップが見込める。
 何か1つの出来事・サービスで、年間の売上げがここまで伸びる方策はそれほど多くないのではないだろうか。

 もちろん法律的には不可能に近いことだろうし、今回のテーマである「なるべくコストをかけずにファンや売上げを増やす」という点には反する。だが、PAT会員すべてを、馬にまつわるカネの流通のほとんどを、JRAが自前の銀行で囲い込めたとしたなら、その費用対効果というか、実現時のメリットは相当以上に大きいはずだ。

 前回ご紹介した『ウェブ進化論』(梅田望夫著/ちくま書房)の中で、重要なキーワードとしてあげられているものに「オープンソース」がある。プログラムを公開し、これをもとに世界中の技術者がよってたかって改良を加えてさらに公開……というルーティンを経て素晴らしいソフトウェアが完成する。あるいは、商品データベースなどに自由にアクセスできるようにし、そこへユーザーを導くソフトやサービスを個人や企業が作り上げて、1つの大きな商圏を生み出す。そういったムーブメントの発端が「オープンソース」である、と捉えていいだろう。
 競馬の世界でこれに近い雰囲気にあるのがJRA−VAN DataLab.のデータだろう。有料ではあるが充実したデータが毎週提供され、またデータフォーマットが公開されているため、このデータを利用するさまざまなソフトウェアが開発され、利用されている。
 ただ現実的には、圧倒的多数の利用者が競馬データベースソフト『Target』との組み合わせで活用しており、それ以外のソフトの利用率はそれほど高くないという。確かに『Target』は優秀なソフトであり、他の凡百の予想ソフト・データベースソフトを凌駕する魅力を放っているが、あくまでもデータベースソフト(兼馬券購入支援ソフト)であり、『Target』の利用者が増えればそれだけ馬券の売上げも向上する、という位置にはないのではないだろうか。
 これは、なんとももったいない話。JRA−VAN DataLab.を単に「便利なサービス」にとどめず、JRA−VAN DataLab.を利用すればもっと当たるようになる、JRA−VAN DataLab.を利用すれば当たらなくともメリットがある、馬券をより多く購入すればJRA−VAN DataLab.利用時にメリットがある、そうした関係を作り上げて、JRA−VAN DataLab.利用者と馬券購入者(購入額)が相乗効果的に伸びるようなシステムを作れないものだろうか。
 また、JRA(またはターフメディアシステム)自らが予想&馬券購入支援ソフトを作って無料配布するという手もありうる。イメージとしてはJRA−VAN NEXTの発展版だ。すでに同様のソフトもあるが「ユーザー自身がさまざまに条件を設定し、その条件に合致した馬券だけを買う」という作業が簡単にできるソフトを作れないだろうか。いや、誰か個人や企業が作ってもいいのだが、いずれにせよ、「JRA−VAN DataLab.と、そのソフトと、自分なりのセンスを組み合わせれば、回収率は向上する」という可能性を持つソフトが作られ、しかも無料で配布されるなら、いくぶんか売上げ向上に寄与できるはずだ。
 前述のJRAバンク利用者(あるいは一定額以上馬券を購入した人)に対して、このソフトの利用権およびJRA−VAN DataLab.データを無料で提供するというのもいい。
 こうしたサービスやシステムは、インターネットを利用しない(というかパソコンを利用しない)人にとっては何のメリットもないことだが、逆にパソコン&インターネットユーザーにとっては大きな利益につながることであるはずだ。

 ともかくも、ネット世界が現実世界を食い、あるいはボーダーがなくなり、競馬を含むあらゆる行為がネットなしでは不可能となる世の中となりつつある。そんな現代において競馬主催者がファン獲得と売り上げ増のために考えなければならないことは、いかにしてネット世界で勢力を伸ばすかということであり、そのためには「インターネットだからできること」を考えつつ、インターネットでしかできない形で“何か”を始めることではないかと思う。




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